インターネットやSNSの普及により、消費者の購買行動は大きく変化しました。企業は従来の広告に加え、インフルエンサーマーケティングなど、より身近に感じられる手法で商品やサービスをPRすることが一般的になっています。しかし、こうした流れの中で「ステルスマーケティング(ステマ)」が問題視されています。
ステルスマーケティング(ステマ)とは?
ステルスマーケティング(ステマ)とは、消費者に広告と認識させずに行う宣伝手法のことで、公正な競争を阻害し、消費者の購買意欲を不当に刺激するリスクがあります。このため、2023年10月1日から景品表示法により規制の対象となりました。違反が発覚した場合、企業の信頼が失われるだけでなく、罰則が科される可能性もあります。
本記事では、ステルスマーケティング(ステマ)の定義や現状、景品表示法による規制内容を詳しく解説し、企業が取るべき具体的な対策についてもご紹介します。公正なマーケティングを実現するために、ぜひご一読ください。

日本におけるステルスマーケティング(ステマ)の現状
日本において近年、消費者が商品やサービスを選ぶ際に、インターネット上のレビューや口コミを信頼して参照する傾向が高まったことが、ステルスマーケティング(ステマ)が問題視される背景の一つです。具体的には、ステルスマーケティング(ステマ)は以下のようなパターンに分類されます。
タイプ | 説明 | 例 |
著名人によるステルスマーケティング | 芸能人やインフルエンサーが、企業から依頼を受けているにもかかわらず、あたかも個人的な意見や体験として商品やサービスを肯定的に紹介する。 | 人気YouTuberが、提供を受けた化粧品を「最近のお気に入り!」と紹介する動画を投稿。 |
クチコミサイトやレビューサイトにおけるステルスマーケティング | 企業の従業員や関係者が、一般ユーザーを装って自社製品を褒める、あるいは競合他社の製品を貶めるレビューを投稿する。 | 旅行会社の従業員が、自社のツアーを絶賛する口コミを旅行サイトに投稿。 |
一般人のふりをしたアカウントによる情報発信 | 企業が、一般ユーザーを装ったアカウントを作成し、商品やサービスに関する情報を拡散する。 | 健康食品会社が、一般ユーザーを装ったアカウントでダイエット効果を謳う投稿をSNSに投稿。 |
なぜステマが駄目なのか?
ステルスマーケティング(ステマ)は、消費者が広告であると気づかずに情報を受け取ることで、購買判断を誤らせるリスクがあります。広告と明示されたものに比べ、消費者の警戒心が薄れるため、より効果的に購買意欲を刺激する可能性が指摘されています。
さらに、ステルスマーケティング(ステマ)は市場における公正な競争を妨げる要因にもなります。一部の事業者が偽装広告を利用することで他の事業者より不当な利益を得る場合があり、市場の健全性を損ない、結果的に消費者の信頼を失墜させる恐れがあります。
特に注目されているのが「アフィリエイト」における影響です。アフィリエイトとは、サイト運営者が商品やサービスを紹介し、その結果生じた売上に応じて報酬を受け取る仕組みです。しかし、ステルスマーケティング(ステマ)を通じて消費者の購買意欲を高める手法が問題視されており、その透明性の欠如が課題とされています。

2. 景品表示法の改正点
2022年10月、景品表示法が改正され、ステルスマーケティング(ステマ)が「不当表示」として規制の対象となりました。この改正は、消費者がインターネット上の情報から大きな影響を受けるようになり、ステルスマーケティング(ステマ)の手法が多様化・悪質化していることを背景としています。
景品表示法の改定の要点としては以下になります。
- 事業者が提供する商品やサービスに関する表示が対象となる。
- 消費者がその表示を事業者によるものと判別しにくい場合、不当表示とされる。
- 広告であることを隠す、または消費者に誤解を与える形の宣伝行為は禁止。
上記の行為は景品表示法違反に該当する。
景品表示法に違反した場合、消費者庁から措置命令(景品表示法第7条)を受ける可能性があります。この措置命令には、違反行為の停止や再発防止策の実施が含まれます。
消費者庁 景品表示法改定について:https://www.caa.go.jp/policies/policy/representation/fair_labeling/stealth_marketing
景品表示法の改正前と改正後の比較
改正前と後を要約すると以下の表のようになります。
項目 | 改正前 | 改正後(2023年10月1日施行) |
規制の対象 | – 「優良誤認表示」や「有利誤認表示」のみ規制対象- ステマは明確な規制対象外。 | – ステマが「不当表示」として明確に規制対象に追加- 消費者が広告と認識できない表示が禁止。 |
具体的な規制内容 | – ステマに関する直接的な規定なし。 | – 事業者が第三者を装って宣伝する行為の禁止- インフルエンサーが広告であることを明示しない場合の禁止- 広告表示が分かりにくい場合の禁止。 |
対象者 | – 商品・サービスを供給する事業者(広告主)のみ。 | – 引き続き事業者(広告主)のみが対象- インフルエンサーや一般投稿者は規制対象外。 |
過去のコンテンツ | – 規制対象外。 | – 施行日以降も公開されている過去のコンテンツも規制対象。 |
罰則 | – 措置命令(違反表示の差し止め、再発防止策の実施など)。 | – 措置命令に加え、命令不履行時には「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」。 |
具体例 | – ステマに該当する行為が規制されることはなかった。 | – 事業者が一般消費者を装ってSNS投稿を行う行為- インフルエンサーが広告であることを隠して投稿する行為。 |
ガイドライン | – WOMJ(WOMマーケティング協議会)の自主規制ガイドラインが存在。 | – WOMJガイドラインが改定され、広告主と情報発信者の「関係性の明示」が義務化。 |
3. ステルスマーケティング(ステマ)にならないための注意点
1. 広告であることを明確に表示する
- インフルエンサーが商品やサービスをPRする際は、「広告」「PR」「提供」などの表示を明確に記載する必要があります。
- 消費者庁は「A社から商品の提供を受けて投稿している」といった表記も適切としています。
- 「広告」「宣伝」「プロモーション」「PR」以外の表現も使用可能ですが、表示全体から一般消費者が「事業者の表示」であることを明確に認識できるようにすることが求められます。
- 例:「○○(企業名)からサンプル品をいただきました」なども認められます。
2. インフルエンサーとの契約時の注意点
- 契約時には、広告であることの明示や虚偽情報の禁止を明確に規定する必要があります。
- インフルエンサーが投稿する内容を事前に確認し、不適切な内容が含まれていないかチェックすることも重要です。
3. 関係性の開示
- 企業の従業員や関係者が口コミを投稿する場合、その関係性を明確に開示する必要があります。
例:「私は○○社の社員です」と記載することで、情報が企業発信であることを消費者が認識できるようにします。
4. 金銭・物品以外の関係性の開示
- 金銭や物品の提供がなくても、企業と密接な関係がある場合には、その関係性を開示することが求められます。
- 特に、親会社や提携企業からの依頼で発信する場合、関係性を明確に示し、ステマと誤解されないよう注意を払いましょう。
4. 過去の行政指導事例
ステルスマーケティング(ステマ)に関する行政指導事例は、消費者庁のウェブサイトなどで公開されています。ここでは、気づかないうちにステルスマーケティング(ステマ)を行ってしまう可能性のある事例をいくつか紹介します。
実際のステマ行政指導例
事業者名 | 行政指導日 | 違反内容 | 具体的な問題点 |
医療法人社団祐真会 | 2024年6月6日 | Googleマップの口コミ投稿欄に高評価をつけることを条件に、ワクチン接種費用を割引した行為が景品表示法違反(ステルスマーケティング(ステマ)規制)と判断された。 | 一般患者を対象に口コミ投稿依頼を行い、事業者の表示であることを隠していたため、消費者が口コミを第三者の意見と誤認する可能性があった。 |
RIZAP株式会社 | 2024年8月9日 | インフルエンサーのInstagram投稿を自社ウェブサイトに転載する際、広告表示を明示せず、第三者の口コミであるかのように見せた行為がステルスマーケティング(ステマ)規制違反とされた。 | インフルエンサー投稿に「#PR」などの広告表示があったが、自社サイトに転載する際に表示を削除したため、消費者が事業者の表示であることを判別できない状態となった。 |
大正製薬株式会社 | 2024年11月13日 | インフルエンサーのInstagram投稿を自社ウェブサイトに転載する際、広告表示を明示せず、第三者の意見であるかのように見せた行為がステルスマーケティング(ステマ)規制違反とされた。 | RIZAPの事例と同様、インフルエンサー投稿に広告表示があったが、自社サイトに転載する際にその表示を削除したため、消費者が事業者の表示であることを判別できない状態となった。 |
これらの事例から、企業がステルスマーケティング(ステマ)と認識せずに、不適切な宣伝を行ってしまう可能性があることが分かります。企業は、景品表示法の規定を正しく理解し、消費者を欺くような宣伝行為を行わないよう注意する必要があります。
5. 今後の展望
ステルスマーケティング(ステマ)に対する規制は、消費者庁が積極的に取り組んでおり、今後さらに強化される可能性があります。また、海外ではステルスマーケティング(ステマ)への対応が厳しくなっており、厳しい罰則を導入する国も増えています。例えば、アメリカでは、ステルスマーケティング(ステマ)を行った企業に対し、高額な罰金や訴訟のリスクが伴います。
企業は、国内外の規制動向をしっかりと把握し、コンプライアンスを徹底することが求められます。さらに、消費者の信頼を得るためには、透明性のあるマーケティング活動を行うことが重要です。
6. ステルスマーケティング(ステマ)を見抜く為の消費者の皆様に伝えたいこと
ステルスマーケティング(ステマ)を見抜くためには、利用する消費者の皆様も以下のポイントを意識することが重要です。
1. 情報源を確認する
- 情報の発信者が誰であるか、信頼できる情報源かどうかを確認しましょう。
- 特に、SNSでの情報は発信者の身元や意図が不明確な場合があるため注意が必要です。
- 例えば、発信者が特定の企業と関係があるアカウントかどうかや、過去の投稿内容を確認するのが有効です。
2. クチコミやレビューを多角的に確認する
- 一つのクチコミやレビューだけを鵜呑みにせず、複数の情報源を参考にしましょう。
- 極端に肯定的または否定的な意見ばかりが目立つ場合、ステルスマーケティング(ステマ)の可能性を疑う必要があります。
3. 批判的思考を身に付ける
- 情報をそのまま受け取らず、自分で考えて判断する習慣を身に付けましょう。
- 情報の真偽を見極める力を養うことが、ステルスマーケティング(ステマ)の影響を回避するために不可欠です。
7. 弁護士から見たステルスマーケティング(ステマ)の対策の見解
ステルスマーケティング(ステマ)(以下、ステマ)は、2023年10月1日から施行された景品表示法第5条第3号に基づき規制されています。この改正により、広告であることを隠して行う事業者の宣伝行為が「不当表示」として違法とされるようになりました。以下は、弁護士へのヒアリングを基にした重要なポイントです。
対策項目 | 具体的な内容 | ポイント |
広告表示の明確化 | 「広告」「PR」「提供を受けた投稿」などの表記を明確にする。 | 表示が消費者にとって認識しやすい位置や形式で行う必要がある。 |
インフルエンサーとの契約管理 | 契約書に「広告であることを明示する義務」を明記する。 | 契約内容を明確化し、違反時の対応策を盛り込む。 |
関係性の明示 | 事業者と情報発信者の関係性(例:金銭提供、商品提供)を明示する。 | WOMJガイドラインに基づき、関係性を具体的に記載する。 |
既存広告の見直し | 過去に公開した広告が規制に抵触していないか確認する。 | 必要に応じて修正や削除を行う。 |
従業員教育 | ステマ規制に関する社内研修を実施し、従業員の理解を深める。 | 特にマーケティング部門や広報部門に重点を置く。 |
弁護士への相談 | 表示内容や契約内容について弁護士に相談し、リーガルチェックを受ける。 | 法的リスクを最小限に抑えるため、専門家の意見を活用する。 |
8. ステルスマーケティング(ステマ)の事例等からのまとめ
ステルスマーケティング(以下、ステマ)は、消費者の購買判断を誤らせるだけでなく、企業の信頼を損なうリスクのある行為です。景品表示法の改正により、ステマは規制対象となり、企業は法令を遵守しつつ、透明性のあるマーケティング活動を行うことが求められています。また、消費者も情報源を確認し、批判的な視点を持つことで、ステマの影響を回避することが可能です。
近年、企業は消費者の共感を呼ぶ自然な広告手法を追求する傾向がありますが、それがステマを助長する要因となる場合もあります。倫理的なマーケティング活動を実践し、消費者との信頼関係を築くことは、企業の持続的な成長にとって欠かせません。一方で、消費者は情報リテラシーを高め、発信者やその意図を慎重に吟味する姿勢が重要です。
ステマの問題は、企業と消費者が協力し、より良い情報環境を築くための重要な課題です。企業は責任ある広告活動を行い、消費者は賢明な情報受信者となることで、健全なマーケットの形成を目指すべきでしょう。
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